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東京家庭裁判所 昭和50年(家)6670号 審判

申立人 三浦博子(仮名)

主文

申立人の氏「三浦」を「原田」に変更することを許可する。

理由

申立人は主文同旨の審判を求めた。

一  筆頭者三浦博子、同原田和義(二通)の各戸籍謄本、世帯主三浦博子、同原田和義にかかる各住民票謄本並びに申立人に対する審問の結果(第一、二回)によると、次の各事実が認められる。

(一)  申立人は出生以来父母の氏「三浦」を称してきたが、○○○大学文学部ロシア語科を卒業後、昭和二九年三月一九日申立人が二七歳の時原田和義と婚姻し、夫の氏「原田」を称するに至つたこと。

(二)  夫婦は婚姻後三人の子(女子)をもうけたが、昭和三七年頃性格の不一致から別居し、申立人は三人の子をひきとつて養育にあたり、相手方は昭和三九年頃から大下良子と同棲し、夫婦は別居生活を続けたが、昭和五〇年八月一四日協議離婚したこと。

(三)  申立人は別居後三児の養育にあたるかたわら、ロシア語の技術書等の翻訳を行なうことにより生計を維持するようになつたが、その翻訳にあたつては出版社等から注文を受けて翻訳を行なう形態をとつてきているところ、直接翻訳者として申立人の氏名を表示するものではないが、「原田博子」の氏名で依頼主と取引関係を結び、十年余にわたりこれに従事した結果現在では依頼主の数も相当数にのぼり、しかもその多くは恒常的な取引関係となつており、現時点で旧姓「三浦」に復するときは、多大の不利益ないし不便を蒙ること。

(四)  また、申立人は「原田博子」の氏名で○○協会の会員となつており、現在その評議員の地位にあること。

(五)  現在申立人の長女(一九歳)は既に他に嫁して氏を変えたが、二女(一八歳)及び三女(一七歳)は申立人と同居しているところ、右の二人の子は氏の変更をすると生活上支障をきたすので、父母の離婚後も氏の変更を求めることなく従来どおり父の氏「原田」を称しているが、母と同居する関係上母と同氏を称するのが便宜であり、母たる申立人が「原田」を称することを希望していること。

(六)  他方原田和義は申立人との離婚後内縁関係にあつた前記大下良子と婚姻したが、右原田和義は申立人が「原田」の氏を称することに反対していないこと。

二  ところで、氏の変更はやむを得ない事由のある場合にはこれを認めるべきところ、右に認定したとおり、本件にあつては、申立人は昭和二九年以来二一年間にわたつて「原田」を称し、これが個人の呼称として社会的にも定着したといいうること、しかも「原田」姓で職業上の地位を築いてきたことにより改氏についての高度の必要性が存すること、離婚について申立人に有責性がないこと、申立人の子の利益のためにも改氏するのが適切であること、離婚した前夫は同氏を称することに反対していないこと、そもそも夫婦は昭和三七年以来十数年にわたり事実上の離婚状態にあつて申立人が「原田」を称してきたのであるから婚姻関係の公示という面からみても弊害はさほど大きくないこと、等の事情が存するのであつて、これらの事情を勘案すると、申立人については、婚姻中の氏「原田」に改氏すべきやむを得ない事由があると認められる。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 岩井俊)

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